登大室山望富嶽 其一

豆州甲國遠中原
虎將梟雄逐鹿焉
富嶽聳天如萬古
戰塵狼火散無痕

2008年11月

押韻

原・焉・痕:上平声十三元韻

訓読

大室山に登りて富嶽を望む 其の一

豆州甲國は中原に遠きも
虎將梟雄 焉に鹿を逐ふ
富嶽天に聳ゆること萬古の如きも
戰塵狼火 散じて痕無し

大室山:伊東市にある標高580mの山。リフトに乗って山頂に登ることができる。
豆州:伊豆
甲國:甲斐
中原:もと中国文明の中心地たる黄河流域を指すが,ここでは当時の日本における天下の中心である京都を意味する.
逐鹿:覇権を争う.「中原に鹿を逐ふ」という成語で群雄が天下の覇権を争うさまをいう.
狼火:のろし

大室山に登って富士山を望む

伊豆や甲斐の国は京のみやこから遠くはなれているが,
戦国時代,虎のような武将や梟のようなたけだけしい英雄がここで覇権を争ったのだ.
富士山が天にそびえるさまははるか昔のままだが,
その麓で繰り広げられた数々のいくさであがった戦塵やのろしは,今となっては消え去ってあとかたもない.

補足

2008年11月,伊豆旅行で大室山に登り、十数年ぶりに作った漢詩です。十数年ぶりというのになぜかほぼ即興でできあがり、漢詩の作詩を再開するきっかけとなりました。自然の悠久と人の世の栄枯盛衰を対比させるという陳腐なモチーフですが、即興としてはうまくまとまったものだと思います。なお虎将・梟雄は一般名詞ですが、起句で伊豆・甲斐がでてきているので、おのずから「甲斐の虎」武田信玄と「日本三大梟雄」のひとり北条早雲の名前を思い浮かべてもらえるんではないかと思っています.

大室山の山頂には、直径300mの火口を囲むように整備された遊歩道があり、東西南北四方の見事な眺望を楽しめます。