夏山欲雨

欲雨天猶未雨時
濕雲抹嶺黛痕微
牧童應懼雷鳴近
頻促駑牛怱卒歸

2024年6月

押韻

上平声五微韻:時(支韻からの借韻)・微・歸

訓読

夏山 雨ふらんと欲す

雨ふらんと欲するの天 猶ほ未だ雨ふらざるの時
湿雲 嶺を抹して 黛痕 微かなり
牧童 応に懼るべし 雷鳴の近きを
頻りに駑牛を促して 怱卒として帰る

雨:ここでは「雨ふる」という動詞である
黛痕:まゆずみの痕。転じて、うっすら青黒く見える山影の形容に用いる。 陸游《雨後快晴歩至湖塘》「山掃黛痕如尚濕 湖開鏡面似新磨」
駑牛:のろまな牛。

夏の山に雨が降り出しそうである

降り出しそうな空からまだ雨は降って来ず
雨雲に塗り消されそうな峰々が眉墨の痕のようにうっすらと見える
牧童は雷鳴が近いのを怖がっているのだろう
のろまな牛をしきりにせき立てながら慌ただしく帰っていく

補足

2024年7月提出の春風吟社課題詠です。「夏山欲雨」というのは画題としてよく知られています。「雨ふらんと欲す」ですから、晴れていては論外ですが、雨が降り始めていてもダメです。「雨が降り出しそうでまだ降らない」様子を、夏山を舞台にして詠まなければいけません。設定がかなり限定されるタイプの詩題ですが、今回は雷を怖がる牧童を主人公にすることでうまくまとめました。