卜新居

窓闊堪干南阮褌
厨寒可貯老劉樽
箇中當避世塵累
正是逸民安楽園

2024年11月

押韻

上平声十三元韻:褌・樽・園

訓読

新居を卜す

窓 闊くして 干すに堪へたり 南阮の褌
厨 寒くして 貯ふべし 老劉の樽
箇の中 当に避くべし 世塵の累
正に是れ 逸民の安楽園

卜新居:新居に良い場所を占う、転じて新居を定めて引っ越すこと。
南阮褌:竹林の七賢の一人阮咸(字:仲容)の家は貧しかった。阮氏一族のうち裕福な家は道の北に居住し(北阮)、貧乏な家は道の南に居住していた(南阮)。旧暦七月七日の虫干しに、北阮の家々は綺麗な衣服を自慢げに干していたが、南阮の阮咸は長竿に褌を掛けて干した。人が驚いてわけを問うと「まだ世俗のしきたりを脱し切れていないので、ちょっとそれらしくしてみただけだ」とうそぶいた。 《世説新語・任誕》阮仲容歩兵居道南、諸阮居道北、北阮皆富、南阮貧。七月七日北阮盛曬衣、皆紗羅錦綺、仲容以竿挂大布犢鼻褌於中庭、人或怪之。答曰、未能免俗、聊復爾耳」
老劉樽:竹林の七賢の一人劉伶は大酒飲みとして知られた。妻から禁酒を迫られた際には「自分では禁酒できないから神にお願いする」と言って、供え物として酒と肉を用意させたうえで「天生劉伶、以酒爲名、一飲一斛、五斗解酲、婦人之言、愼不可聽」と唱えて供え物の酒をたらふく飲んで酔いつぶれたという。
逸民:世捨て人。隠者。

新居を定める

新居の窓は広くて阮咸を真似て褌を干すのに十分であり
台所は冷え冷えとしていて劉伶が飲むほどの酒樽を貯蔵するのにちょうどよい
この部屋の中なら世俗の垢にまみれる煩わしさから逃れられるはずだ
まさに世捨て人にとっての安楽の園である

補足

11月に築古マンションに引っ越しましたが、断熱性ゼロの昭和窓が無駄に大きく、かつ多く、冷え冷えとしているので、それを逆手に取って自慢する詩を強がって詠んでみました。