一碧湖 其一

遠樹猶靑近樹紅
絶無雲片一天空
湖心微浪帶光起
静到沙汀濯落楓

2008年11月

押韻

紅・空・楓:上平声一東韻

訓読

一碧湖 其の一

遠樹 猶ほ青く 近樹は紅し
絶えて雲片無く 一天空し
湖心の微浪は光を帯びて起こり
静かに沙汀に到りて落楓を濯ふ

一碧湖:静岡県伊東市にある湖。その名は、北宋の文人范仲淹の《岳陽楼記》の一節「一碧萬頃」にちなんで、1927年に、杉山三郊により命名された。
沙汀:砂のみぎわ
楓:「カエデ」と読むが、実際は中国でいう「楓」と日本の「カエデ」は全く別の植物。ただ、日本人が漢詩を作る場合は「楓」を日本の「カエデ」の意味で使うのが普通

一碧湖 その一

遠くの樹はまだ青く、近くの樹はもう紅い
雲のかけらひとつなく空は晴れわたっている
湖の真ん中では光をともなってさざなみが起こり
静かに砂のみぎわに打ち寄せてカエデの落ち葉をきれいにあらう

補足

一碧湖は「伊豆の瞳」と呼ばれるほどの美しい湖です。紅葉の盛りではないかと期待して訪れたのですが、まだ五分程度でした。それでも十分その美しさは堪能できました。なお、一碧湖を訪れたのは大室山に登る前でしたので、その時点では漢詩を作るつもりは全くなく、ここに示す一連の詩も、旅行を終えてから景色を思い出しながら作ったものです。