初夏漫吟

碧落渾晴梅夏未
黃雲遍湧麥秋闌
詩家四月無忙事
不韤不巾吟歩寛

2024年5月

押韻

上平声十四寒韻:闌・寛(対句のため起句は踏み落とし)

訓読

初夏漫吟

碧落 渾て晴れて 梅夏 未だし
黄雲  遍く湧いて 麦秋 闌(たけなは)なり
詩家の四月に忙事無く
韤せず 巾せず 吟歩 寛(ゆる)し

碧落:青空。
渾:すべて。すっかり。ひっくるめて。
梅夏:梅雨の季節。梅の熟す夏。 蘇軾《皇太妃閣》「雨細方梅夏 風高已麥秋」
黃雲:穀物が一面に黄熟したさまを黄色い雲にたとえたもの。 高啓《打麥詞》「雉雛高飛夏雲暖 行割黃雲隨手斷」
闌:たけなわ。物事のピークを過ぎつつある状態をいう。
四月:旧暦四月。新暦ではだいたい五月に相当。初夏。 司馬光《初夏》「四月淸和雨乍晴、南山當戸轉分明」
忙事:いそがしい仕事。 范成大《繰糸行》「姑婦相呼有忙事 舎後煑繭門前香」
不韤不巾:足袋もはかず頭巾もかぶらず。 永富撫松《初夏閒興》「飯罷晩風修竹下 不巾不韤儘逍遙」
吟歩:詩を吟じながら(あるいは案じながら)歩く。 館柳灣《正月五日獨歩東郊》「東郊三十里 吟歩弄春姸」

初夏、気ままに吟じる

青空はすっかり晴れあがって梅雨の季節はまだ来ず
黄色い雲が一面に湧き起こるような麦秋のまっさかり
そんな初夏四月にも詩人には忙しい仕事はなく
足袋もはかず頭巾もかぶらず、のんびり詩を吟じながら歩くのだ

補足

春風吟社2024年5月提出課題詠です。題意自体は特に難しいところはありません。春が過ぎ梅雨に入る前のさわやかな時期の情景と、そんな快適な時季にふさわしい気楽さを詠みこめばいいだけですが、それをどういう道具立てで構成するかが成否を左右します。