端午偶感

悴憔慵仰鯉旗高
儘把菖蒲泛巷醪
獨醉難銷獨醒恨
數行暗淚濺離騷

2024年6月

押韻

下平声四豪韻:高・醪・騷

訓読

端午偶感

悴憔 鯉旗の高きを仰ぐに慵く
儘 菖蒲を把って 巷醪に泛ぶ
独酔 銷し難し 独醒の恨み
数行の暗涙 離騒に濺ぐ

悴憔:疲れてやせ衰えること。憔悴に同じ。
鯉旗:鯉のぼり。
儘:ままよ。まあまあ。
巷醪:町で売っている安酒。 皇甫嵩《醉郷日月》「人以家醪糯觴醉人者、爲君子、・・・人以巷醪灰觴醉人、爲小人」
獨醒恨:自分ひとり道理にこだわり世に容れられない恨み。 《楚辭・漁父》「挙世皆濁、我独清。衆人皆酔、我独醒。是以見放」
暗淚:人知れずひそかに流す涙。
離騷:伝説上、端午節の由来は屈原の死とその供養にあるとされるため、端午には「離騒」が読まれる。 徳川光圀《端午》「千古楚風徒競渡 不如端坐讀離騷」

端午にふと起こった思い

空高く翻る鯉幟を仰ぐのも面倒なほどにやつれ衰えてしまったが
ままよ、安酒に菖蒲を浮かべて飲むことにしよう
だが、ひとり寂しく酔ったところで屈原のような独醒の恨みを消すことはできず
読みかけの『離騒』に人知れぬ涙が幾筋もこぼれ落ちる

補足

言うまでもなく端午の節句の由来は唐土にありますが、日本に伝わってからは日本独自の風習も加わりました。この詩でいえば、鯉幟は日本独自、菖蒲酒や屈原との関わりは唐土由来のものですが、日本の端午を詠む以上、両者が混在するのは自然なことと思います。