淸風莊 曾是西園寺公望公別墅

別開天地鴨河東
大隱何須厭市中
恬淡棄捐槐棘位
安閑保養鷺鷗躬
樓頭煙霽老松綠
橋下漣生肥鯉紅
遺愛林泉懷舊主
淸風莊裏領淸風

2024年6月

押韻

上平声一東韻:東・中・躬・紅・風

訓読

清風荘(曽て是れ西園寺公望公の別墅なり)

別に天地を開く 鴨河の東
大隠 何ぞ須ひん 市中を厭ふを
恬淡として棄捐す 槐棘の位
安閑として保養す 鷺鴎の躬
楼頭 煙霽れて 老松 緑に
橋下 漣生じて 肥鯉 紅なり
遺愛の林泉に 旧主を懐ひ
清風荘裏 清風を領す

淸風莊:京都市左京区田中にある日本庭園。庭園は国指定名勝、附属建造物は国指定重要文化財。江戸時代は徳大寺家の下屋敷「清風館」であったものを、住友財閥当主住友友純(徳大寺家からの養子。西園寺公望の実弟)が明治40年に譲り受けて、実兄である西園寺公望の別荘とするため整備し、清風荘と改名した。大正2年にほぼ完成し、首相を辞任して政友会とも距離を置くようになった西園寺は持病の療養も兼ねてここに引きこもり、各方面からの上京要請にも応じなかった。大正5年以降は本拠を静岡県の勝間別荘ついで坐漁荘に移して清風荘を離れたが、その後も入洛の際は清風荘に滞在している。西園寺が文相在任時に京都帝大創設に尽力した縁で、西園寺没後、京大に寄贈された。現在も京大が管理し、内外のVIPや高額寄付者の接遇に活用されるほかは原則非公開となっているが、毎年10月のホームカミングデイでは卒業生を対象に抽選制で公開している。今回は学士会のイベントとして5月末、抽選制で特別公開された。
西園寺公望:1849~1940。第12・14代内閣総理大臣。清華家(摂関家に次ぐ家格)の徳大寺家に生まれ、同じ清華家の西園寺家の養子となって家督を継いだ。維新後はフランス留学などを経て各国公使、文相、外相などを歴任。伊藤博文の後を継いで立憲政友会総裁となり、明治39年以降、桂太郎と交互に2度にわたって首相を務め、「桂園時代」と称せられた。2度目の首相退任後は一時、政治の一線から退いたが、その経歴・識見から政界の重鎮としての立場を保持し、大正5年には正式に元老に加えられた。山県有朋、松方正義没後はただ一人の元老となり、「最後の元老」として、議会を尊重する穏健保守主義と国際協調を志向し、藩閥や極端な国粋主義とは距離をとりつつ、中立的な調停者としての権威を維持すべく腐心した。晩年は軍部・革新派の台頭と政党不信の広がりの中で徐々に影響力を失い、反対し続けた独伊との三国同盟締結にも抗しきれず、失意のうちに亡くなった。
大隱:環境にとらわれない真の隠者。山林などに逃れることなく街の中で生活しながら、しかも隠者としての心持を失わない人。 白居易《中隱》「大隱住朝市、小隱入丘樊」
恬淡:無欲であっさりしているさま。西園寺が地位に執着せず、ときに「淡泊すぎる」ほどであったことは、周囲の多く証言するところである。
槐棘:エンジュとイバラ。周代朝廷に三槐九棘を植え、三公は槐に、九卿は棘に面して坐したことから、三公九卿を意味する。ここでは西園寺が務めていた首相や政友会総裁などの要職を指す。
鷺鷗:世俗を離れて風流に生きる者のたとえ。鷗鷺に同じ。

清風荘(かつて西園寺公望公の別荘であった)

この庭園は鴨川の東に別天地を開いたかのようだ
大隠とよぶべき西園寺公にとって市街地の中にあることを嫌がる必要はなかったのだ
首相の地位も政友会総裁の地位もあっさりと捨て去った公は
のんびりと心静かにここで俗世と関わらない身を保養した
当時のままの高殿のそばでは靄が晴れて古い松が青々と茂り
池にかかる橋の下ではさざなみが起こって大きな鯉が赤い姿をあらわす
こうして遺愛の庭園を眺めながら公のことを思い浮かべつつ
清風荘という名前どおりの清々しい風を堪能するのであった

補足

京都には長い歴史と広大な庭園を有する超高級別荘が存在します。ニトリが保有する對龍山荘、日本調剤からファストリの柳井会長の手にわたった洛翠、前澤友作氏が購入した智水庵などが話題になってきましたが、京大が所有する清風荘もそれらに伍する歴史と価値を誇る文化財です。VIPにも高額寄付者にもなれない僕などが、非公開の清風荘内に潜入するにはホームカミングデイなどの特別公開イベントに参加するしかありません。今回は学士会会員向けに開催された公開イベントに抽選を通過して参加することができました。

5月末の公開当日は天候にも恵まれ、快晴の空のもとで、この詩の末句にも詠んだように、清風荘の名前さながらの清風を堪能できました。

別荘内の写真撮影も許可されていたので、庭園の素晴らしい景色の写真を撮りまくりましたが、SNS・ブログへの掲載は禁止されていますのでここで公表することはできません。しかし詩を詠んではいけないとは言われていませんので、写真の代わりに詩で庭園の素晴らしさをお伝えする次第です。