那智瀑布

千丈飛泉懸翠壁
萬升砕滴灑靑叢
方看那智山深處
欲上白龍呼雨風

2009年7月

押韻

叢・風:上平声一東韻.対句のため起句は踏み落とし

訓読

那智の瀑布

千丈の飛泉 翠壁に懸かり
万升の砕滴 青叢に灑ぐ
方に看る 那智の山深き処
上らんと欲する白龍 雨風を呼ぶを

:長さの単位.十尺.時代によりその実際の長さは微妙に異なるが,唐代以降であれば1丈は約3メートルに相当する.日本でもほぼ同じくらい.むろん,那智の滝が実際に1000丈=3000メートルあるわけではない.
飛泉:滝
翠壁:緑におおわれた崖
:体積の単位.十合.その実際の量は時代により大きく異なる.1升は唐代であれば約0.6リットル,宋代であれば約1リットル,日本では約1.8リットルに相当する.
砕滴:砕け散るしずく
:そそぐ
靑叢:青いくさむら
:今こそ,今や,今まさに

那智の滝

千丈の高さの滝が緑におおわれた崖にかかり
万升もの砕けた滴が青く茂る叢にふりそそぐ
今まさに見ているのは,那智山の奥深いところで
天に昇ろうとする白い龍が雨と風を呼んでいるところなのだ

補足

那智勝浦に来たからには,那智の滝を見に行かないわけにはいきません.紀伊勝浦駅前から那智山行きのバスが出ているのですが,なぜか乗り込むのは僕だけ,その後もバス停から乗ってくる人は一人もなく,結局,滝前のバス停で下りるまで,バスの中は運転手さんと僕だけで,降りぎわに運転手さんに「結局,貸切でしたね(笑)」と言われてしまいました.紀伊勝浦駅を出発したときにはまだ晴れていたのですが,山深く入っていくにつれ空が雲に覆われ,滝に着くころには小雨が降っていました.肝心の那智の滝ですが,幸い,水量十分,迫力満点で雨のなか山深くたずねて来た甲斐のあるものでした.旅から帰って職場の人に聞いた話では,雨の少ないときにはちょろちょろとしか流れてないこともあるそうなので,運がよかったと思います.結句の「白龍」はもちろん滝のたとえです.