木津江堤春遊 其一

堤上櫻花如彩煙
非紅非白自鮮姸
樹陰午宴足芳酒
蝶繞杯飛酔客眠

2009年4月

押韻

煙・妍・眠:下平声一先韻

訓読

木津江堤春遊 其の一

堤上の櫻花 彩煙の如し
紅に非ず 白に非ず 自ら鮮妍なり
樹陰の午宴 芳酒足り
蝶は杯を繞りて飛び 酔客は眠る

木津江:木津川.三重県に源を発して北流して京都府に入り,城陽市の西端をかすめたあと,宇治川・桂川と合流して淀川となる.
彩煙:美しいいろどりのもや

木津川の堤の春遊び

堤の上に咲く桜の花はまるで,いろどり美しいもやのよう.
その色は赤でもなく白でもないが,おのずから鮮やかでうつくしい
桜の木陰でもよおされている昼の宴には酒が十分あり
蝶が酒盃をめぐって飛び,酔っ払いは眠っている

補足

城陽市の西端を流れる木津川の堤には桜が植えられ,その季節になると花見客が集まって楽しみますが,有名な観光地でもなく,市街地からも遠いため,洛中の花の名所にはない,のどかな雰囲気を味わうことができます.

承句の「非紅非白」は白居易の「非琴非瑟亦非箏(琴に非ず瑟に非ず亦た箏に非ず)」をはじめとしてしばしば用いられる「非A非B(非C)」というレトリックを使っています.このレトリックはなかなか便利で,大河ドラマの主人公直江兼続も晩年に作った「洛中作」という七言絶句で「非琴非瑟自風流」と詠んでいます.もっとも,否定形を連発することで読み手や聞き手の注意をひきつけるというレトリックは漢詩に限ったことではありません.うろ覚えですが,毛沢東も「革命とは,客を招いてご馳走することでもなければ,詩文を作ることでもなく,刺繍をしたりすることでもない」と否定を繰り返したあとに「革命とは暴力である」とか何とか言っていたはずです.詩でも文でも演説でも,この手の否定連発のレトリックは使い勝手がいいということなのでしょう.