瀞峡 其三

峡水舟過峰影摧
遠尋深澗避炎埃
及逢獅子巌將吼
忽地風雲帯雨来

瀞峡甚多奇巌珍石，巌石各有其名，曰亀巌，曰天柱巌，曰蓮華巌，曰龍潜窟，曰洞天門，曰獅子巌。獅子巌是瀞峡第一奇巌，其状正如獅子向天咆哮，使人感嘆畏怖。

2009年7月

押韻

摧・埃・来：上平声十灰韻

訓読

瀞峡 其の三

峡水 舟 過ぎて 峰影 摧（くだ）け
遠く深澗を尋ねて 炎埃を避く
獅子巌の將に吼ゆるに逢ふに及んで
忽地として 風雲 雨を帯びて来たる

瀞峡は甚だ奇巌珍石多く，巌石に各（おのおの）其の名有り，曰く亀巌，曰く天柱巌，曰く蓮華巌，曰く龍潜窟，曰く洞天門，曰く獅子巌。獅子巌は是れ瀞峡第一の奇巌にて，其状は正に獅子の天に向かひて咆哮するが如く，人をして感嘆畏怖せしむ。

注

深澗：奥深い谷川
炎埃：熱いほこり，夏の熱気
獅子巌：瀞峡にある岩の名前。
忽地：たちまち，急に

訳

瀞峡

峡谷の水の上を舟が通り過ぎて，水に映る山影がこわれ，
われわれは下界の熱気を避けて，遠く奥深い谷川を尋ねていく
獅子岩という岩がまさにその名のとおり吼え出そうとするところに出くわしたところで
急に風と雲が雨をともなってやって来た

（注）瀞峡には奇妙で珍しい岩石が多く，それぞれに名前がついている。たとえば，亀岩，天柱岩，蓮華岩，龍潜窟，洞天門，獅子岩などである。獅子岩は瀞峡第一の奇岩で，その形状はまさに獅子が天にむかって咆哮しているようであり，見るひとを感嘆させ，畏怖させる。

補足

瀞峡めぐりの前半は好天にめぐまれていたのですが，だんだん雲行きがあやしくなり，獅子岩という岩の前に来たあたりからぽつぽつと雨が降り始めました。いきなり獅子岩という言葉がでてくると少し難があるかとも思ったので，短文の注を付しておきました。そこに書いてあるとおり，獅子岩はほんとうにライオンが吼えているように見えます。写真では少しわかりにくいかもしれませんが，雰囲気は伝わるかと思います。