楓陰茗話【2024.10】
楓陰茗話
焚燒丹葉火凝紅
蟹眼未生湯鼎中
暫愛霜林談小杜
茶煙輕颺落楓風
2024年10月
押韻
上平声一東韻:紅・中・風
訓読
楓陰茗話
丹葉を焚焼すれば 火 紅を凝らすも
蟹眼 未だ生ぜず 湯鼎の中
暫く霜林を愛して 小杜を談ずれば
茶煙 軽く颺がる 落楓の風
注
茗話:茶話に同じ。茶を飲みながら語る。茶飲み話。
凝紅:真っ赤になる。 李賀《梁臺古愁》「芙蓉凝紅得秋色 蘭瞼引春啼脈脈」
蟹眼:茶を沸かす際に沸騰し始めに生じる蟹の眼のような小さい泡。 蘇軾《試院煎茶》「蟹眼已過魚眼生 颼颼欲作松風鳴」
湯鼎:茶の湯を煮る器。 陸游《雨中睡起》「松鳴湯鼎茶初熟 雪積爐灰火漸低」
霜林:紅葉した林。 銭惟善《南江夕照》「千重雲岫連平遠 五色霜林映渺茫」
小杜:杜牧。「山行」詩は紅葉を詠じた詩の代表格。 杜牧《山行》「停車坐愛楓林晩 霜葉紅於二月花」
茶煙輕颺落楓風:杜牧《題禪院》「今日鬢糸禪榻畔 茶煙輕颺落花風」
訳
紅葉の木陰で茶を飲んで語る
紅葉を焚けばその火は真っ赤に燃え上がるが
茶釜の中ではまだ小さな泡も生じていない
しばらく「山行」の詩のように紅葉を愛でながら杜牧について語り合っていると
杜牧の「禅院に題す」の詩さながら、落花ならぬ落楓の風に茶の沸く煙が軽く立ち上りはじめた
補足
「楓」という漢字は本来、「フウ(別名:サンカクバフウ、タイワンフウ)」という落葉高木を意味しますが、漢字が日本に伝わった古代にはこの植物は日本に存在しなかったため、日本人はフウと同様に美しく紅葉する「カエデ」にこの漢字を当てて用いることになりました。
「フウ」は江戸時代に日本に伝来し、現在では日本にもフウの樹が広く植えられていますが、それでも日本で「楓」の字は「フウ」ではなく「カエデ」を指し、それは日本人の漢詩でも同様です。
なお、樹木名に「陰」をつけた「〇陰」という言葉は多くの場合、その樹木の青葉が茂る木蔭を指しますが、「楓」の場合は通常、秋の紅葉した木蔭を指します。
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