謹賦宸題 夢 擬從軍行

雙雙胡蝶曾同茵
今覓三刀獨在軍
無定河邊伏沙上
孤閨夢裏毎逢君

2025年1月

押韻

上平声十二文韻:茵(真韻から借韻)・軍・君

訓読

謹んで宸題「夢」を賦し 従軍行に擬す

双双たる胡蝶 曽て茵を同にす
今 三刀を覓めて 独り軍に在り
無定河辺 沙上に伏すとも
孤閨夢裏 毎に君に逢はん

從軍行:楽府題の一つで、従軍兵士の苦しみ辛さを述べたもの。
雙雙:ふたつで一組、ふたつずつ、であるさま。
胡蝶:荘周は夢の中で胡蝶となって楽しみ自分が荘周であることも忘れた。夢から覚めてみると、荘周の夢の中で胡蝶となったのか、胡蝶の夢の中で荘周になっているのかわからなくなったという。 《荘子・齊者論》「昔者荘周夢爲胡蝶。栩栩然胡蝶也。自喩適志與。不知周也。俄然覺、則蘧蘧然周也。不知周之夢爲胡蝶與、胡蝶之夢爲周與」 呉融《杏花》「願作南華蝶 翩翩繞此條」
茵:しとね。寝具。
三刀:「州」字は昔は「刕」とも書いたことから、三つの刀で「州」をあらわす。晉の王濬はある夜、三本の刀にさらに一本の刀が増える(=益:ます)夢を見たところ、その後、果たして「益州」の刺史となった故事から、出世する予兆の夢を「三刀の夢」という。
無定河:オルドス地方を流れる黄河の支流。泥を多く含み頻繁に流路が変化することから「無定(定まり無し)」の名がついたという。唐代の西北国境に位置していたことから、辺境の戦場を象徴する地名として辺塞詩で多用された。 陳陶《隴西行》「可憐無定河邊骨 猶是春閨夢裏人」
孤閨夢裏:家にひとり残された妻が孤独な寝室の夢の中。

つつしんで御題の「夢」で詩を詠み、「従軍行」を真似て作る

かつてはお前と同じ布団で、夢の中でつがいの蝶になって楽しんだが
今は出世の予兆である「三刀の夢」をもとめて自分ひとり軍中にいる
辺境の最前線、無定河のほとりで砂漠の上で寝ていても
ひとり寝のお前の夢の中へ毎晩でも会いに行くつもりだ

補足

今年も例によって歌会始の御題を漢詩で詠みました。「夢」にかかわる故事は多いので、それらを組み合わせれば何となく詠物詩になるのですが、それだけにかえって納得のいくものになりにくく、結局、「従軍行に擬す」という形で出征兵士が家に残した妻を想う内容にしてみました。