歳旦自贈

鐵經百鍊始成鋼
講武修文常莫忘
若醉屠蘇催懶意
薪中須臥膽須嘗

2024年1月

押韻

下平声七陽韻:鋼・忘・嘗

訓読

歳旦 自らに贈る

鉄は百錬を経て 始めて鋼と成る
講武 修文 常に忘るる莫れ
若し 屠蘇に酔うて 懶意を催さば
薪中 須らく臥すべし 胆 須らく嘗むべし


歳旦:年の最初の朝。元旦。
百鍊:幾回となく錬り鍛えること。
講武修文:武を講じ文を修める。文武を習い修得すること。
懶意:おこたる心、ものうい心。
薪中須臥膽須嘗:春秋時代、呉と越の両国は激しく抗争した。越との戦いで父・闔廬を失った呉王・夫差は越への復讐を誓い、薪の上に寝起きして怨みを忘れないようにして努力し、即位後2年目にして越を破って復讐を遂げた。会稽山で呉に降伏した越王・勾践は夫差への臣従を誓って命乞いをし、死を免れた。越に戻った勾践は呉に復讐すべく、身近に動物の胆嚢を吊るしてこれを舐めてはその苦さで会稽の恥辱を思い出し、二十年かけて富国強兵に励み、ついに呉を攻め滅ぼした。 蘇軾《擬孫権答曹操書》「僕受遺以来、臥薪嘗胆」 《十八史略》「夫差志復讎、朝夕臥薪中。出入使人呼曰、夫差、而忘越人之殺而父邪。周敬王二十六年、夫差敗越于夫椒。越王句踐、以餘兵棲會稽山、請爲臣妻爲妾。子胥言、不可。太宰伯嚭受越賂、説夫差赦越。句踐反國、懸膽於坐臥、即仰膽嘗之曰、女忘會稽之恥邪。・・・・越十年生聚、十年教訓。周元王四年、越伐呉。呉三戰三北。夫差上姑蘇、亦請成於越。范蠡不可。夫差曰、吾無以見子胥。爲幎冒乃死」

元旦に自分に向けて贈る詩

鉄は何度も錬り上げられてはじめて鋼となるのだ
文武の鍛錬は常に忘れるな
もし元日だからと屠蘇に酔って怠け心をもよおすようなら
夫差や勾践のように薪に臥し胆を嘗めてでも心を奮い立たせなければならない

補足

春風吟社2024年1月提出の題詠です。「元旦に自分に向けて贈る」という題ですので、年頭にあたって自分から自分へ向けてのメッセージを詠むわけですが、メッセージの内容としては戒めもあれば励ましもあり得ますし、自嘲や自慰もあり得るでしょう。ただし、メッセージ性のないただのお正月の感想では「自贈」にはならない点に注意が必要です。