戲賦我所望

銜杯不問酒濃淡
彈瑟忽忘弦有無
失意泰然如得意
安居陋屋守迂愚

2023年1月

押韻

無・愚:上平声七虞韻(対句のため起句は踏み落とし)

訓読

戯れに我が望む所を賦す

杯を銜(ふく)んでは酒の濃淡を問はず
瑟を弾じては忽ち弦の有無を忘る
意を失ふとも泰然として意を得るが如く
陋屋に安居して 迂愚を守らん

弦有無:陶淵明は弦のない琴を愛持し、酒を飲んで興が乗ると、その無弦の琴を鳴らして楽しんだという。 蕭統《陶靖節傳》「淵明不解音律、而蓄無弦琴一張、毎酒適、輒撫弄以寄其意」
失意泰然:「六然訓」のひとつ。崔銑《聴松堂語鏡》「自處超然 處人藹然 有事斬然 無事澄然 得意澹然 失意泰然」
守迂愚:自分が世の中にうとく愚かであることをわきまえて、背伸びしたり見栄を張ったりせず、分に応じた生き方をする

私が望むことを面白半分に詠んでみる

酒が濃いか薄いかなど気にせず杯を口に運び
弦があるかないかも忘れて思いのまま瑟を奏でる
物事がうまく行かなくても泰然として、まるでうまく行っているかのように過ごし
粗末な家で安らかに暮らしてただ自分の愚かさに応じた生き方を守る、そんなふうでありたい

補足

起承の対句がなんとなく出来たので、これに六然訓をからめてそれらしい詩にこしらえてみました。六然訓はいちいちもっともな内容で、座右の銘にしている方も多いようですが、よほどの人格者ならともかく、我々のような凡人が「座右の銘です」などと言おうものなら、「全然実践できてねーじゃねえか」と突っ込まれるのがオチなので、要注意です。僕の場合は飽くまで希望を詠んだだけなので、実践できていなくてもご容赦ください。

なお、勝海舟も六然訓を気に入っていたらしく、勝海舟全集にも「座右銘」として六然訓が収められていますが、海舟が作ったものではないので全集に収めるのはおかしいと思います。