與鄂羅渠酋

無名無義起烽塵
殺戮無辜爲鬼燐
恨血千年難拭去
楚雖三戸必亡秦

2024年2月

押韻

上平声十一真韻:塵・燐・秦

訓読

鄂羅の渠酋に与ふ

名も無く義も無く 烽塵を起こし
無辜を殺戮して 鬼燐と為す
恨血 千年 拭ひ去り難し
楚は三戸と雖も 必ず秦を亡ぼさん

鄂羅:ロシア。鄂羅斯(ヲロシャ)の略。 重野成齋《佐久閒象山碑》「往時鄂羅之擾北邊、外事初動」
渠酋:(悪党の)かしら。頭目。首領。
無名:名分がない。正当な理由がない。 《後漢書・袁紹傳》「今棄萬安之術、而興無名之師」
烽塵:兵馬の起こす塵。戦塵。
鬼燐:鬼火。死者の霊や怨念が火の玉となって現れたもの。
恨血:恨みを抱いて死んだ人の血。 李賀《秋來》「秋墳鬼唱鮑家詩 恨血千年土中碧」
楚雖三戸必亡秦:戦国末期に楚が滅亡して後、「楚雖三戸、亡秦必楚」(楚の秦に対する恨みは極めて深いので、たとえ楚がたった三戸になっても秦を亡ぼすのは必ず楚である)という言葉が流布した。実際、陳勝も項羽も劉邦も楚人であった。 陸游《金錯刀行》「嗚呼楚雖三戸能亡秦 豈有堂堂中國空無人」

ロシアの頭目に与える詩

何の大義名分もなく戦塵を巻き起こし
罪なき人々をむやみに殺戮してその魂を鬼火にしてしまった
恨みのこもった血は千年かかっても拭い去ることはできまい
かつて楚は三戸になっても必ず秦を亡ぼすと誓ったが、ウクライナも同じ決意であろう

補足

ロシアによるウクライナ侵略から2年に際し、やりきれない思いを「プーチンに与える詩」という形で詠みました。侵略開始時に詠んだ「時事偶感」では春秋時代の故事を使用しましたが、今回は戦国時代の故事を使っています。まさにこの侵略戦争によって、現代世界が春秋戦国時代のような乱世に近づきつつあると感じずにはいられません。