十三夜想不識庵

繼華賞月陣營中
橫槊吟詩鼓虎熊
豈以曹瞞爲匹敵
秋霜肅殺幾奸雄

2021年10月

押韻

中・熊・雄:上平声一東韻

訓読

十三夜 不識庵を想ふ

継華 月を賞す 陣営の中
槊を横たへ詩を吟じて 虎熊を鼓す
豈に曹瞞を以て匹敵と為さんや
秋霜 粛殺す 幾奸雄

十三夜:旧暦9月13日(2021年は10月18日)の月をめでる日本独自の風習。延喜19年(919年)、醍醐天皇が催した月の宴で宇多法皇がこの夜の月を「無双」と賞したことに始まるともいう。 藤原忠通《十三夜翫月》「十三夜影勝於古 數百年光不若今」
不識庵:上杉謙信の庵号。天正5(1577)年9月、能登の七尾城攻めの陣中で「九月十三夜陣中作」を詠んだとされる。
繼華:旧暦九月十三夜の月の宴。 
橫槊吟詩:蘇軾《前赤壁賦》「釃酒臨江、横槊賦詩、固一世之雄也。」
虎熊:熊虎に同じ。勇猛な兵士のたとえ。 
曹瞞:魏の曹操。幼名阿瞞。
匹敵:対等の相手。
秋霜:人格、節操、威勢などの厳しいたとえ。「秋霜烈日」
粛殺:秋の厳しい気候が草木を枯らすこと

十三夜に上杉謙信を思い浮かべる

謙信は遠征の陣中で十三夜の月をめで
かの曹操のように槊を横たえ詩を吟じて勇猛な将兵を鼓舞した
とはいえ曹操ごときをどうして対等の相手とみなすだろうか
謙信の人格の厳しさは秋霜が草木を枯らすように曹操のような奸雄を何人でも滅ぼせるのだ

補足

十三夜を詠んだ漢詩として最も有名なのは謙信の詩といってもよいでしょう。陣中で詩を詠むといえば、赤壁の賦で「槊を横たへ詩を賦す」と詠まれた曹操が元祖ですが、その曹操も人格の高潔さ、厳しさでは謙信の相手ではない、という形でまとめました。

曹操と謙信を比較して曹操のほうが凄いというのは当たり前のことで詩になりません。中国の三分の二を手中にした曹操よりも越後の国主にすぎない謙信のほうが凄い、それは領土の広さではなく人格によるものだ、と言うことではじめて詩になるのです。「犬が人を噛んでもニュースにならない、人が犬を噛んだらニュースになる」と言いますが、詩にも同じことが言えます。

なお、「曹瞞」は曹操をけなすとき、批判するときなどに使う呼び方であって、曹操をたたえるときには「魏武」と呼びます(参考:「魏武歿後一千八百年賦一詩」)。