謹賦宸題 實 其一

弄虛蔑實畫非畫
拘實排虛詩豈詩
實卽是虛虛卽實
剖分虛實事應危

2021年1月

押韻

詩・危:上平声四支韻(対句のため起句は踏み落とし)

訓読

謹んで宸題「実」を賦す 其の一

虚を弄び実を蔑めば画も画に非ず
実に拘り虚を排すれば詩も豈に詩ならんや
実 即ち是れ虚 虚 即ち実
虚実を剖分すれば 事 応に危ふかるべし

宸題:天子の出す詩歌の題。ここでは宮中歌会始のお題。令和3年(2021年)のお題は「実」
蔑:さげすむ、あなどる、軽視する。
拘:かかわる、かかずらう、こだわる。
實卽是虚虚卽實:《般若波羅蜜多心経》「色即是空 空即是色」
剖分:切り分ける

つつしんで御題の「実」で詩を詠む その一

虚構をもてあそんで事実を軽視すれば画にはならないし
事実にこだわって虚構を排斥すれば詩になりえない
実はすなわち虚であり虚はすなわち実である
虚と実を切り分けようなどとすれば、物事はきっと危ういことになるだろう

補足

新型コロナの感染拡大により、今年の歌会始は延期になってしまいましたが、僕は例年通り御題で詩を作りました。令和3年の御題は「実」です。歌の場合も同じでしょうが、「果実」の「実」として作るか、「真実」「事実」の「実」として作るかで方向性が変わってきます。

一首目のこの詩では、「虚と実」をテーマにして、かなりトリッキーな詩を作ってみました。全句に「虛」と「實」の2字が登場し、全28文字のうち10文字が「虛」「實」という特殊なつくりの詩です。

起句と承句の対句を思いついて「これはいける」と喜び、転句もすんなり(というか般若心経のパクリなので)決まったのですが、肝心の結句がなかなかまとまらずかなり苦労しました。レトリックを駆使しすぎているため、それに見合うまとめ方にしないと完全に尻つぼみになってしまいます。なんとか苦しまぎれに上記のような形でまとめてみましたが、起承のレトリックが派手な分、結句がやや弱く感じてしまうのは否めません。