秋懷【2024.09】(秋懐)
秋懷
飄搖身世又逢秋
陋屋已寒重敝裘
縱使思鱸情切切
豈妨采菊意悠悠
低簷月皓和虫嘯
高杪柿紅先鳥收
貧富窮通非所問
仰旻不疚竟何憂
2024年9月
押韻
下平声十一尤韻:秋・裘・悠・收・憂
訓読
秋懐
飄揺せる身世 又た秋に逢ひ
陋屋 已に寒くして 敝裘を重ぬ
縦ひ 鱸を思ふの情 切切たるも
豈に妨げんや 菊を采るの意 悠悠たるを
低簷の月 皓ければ 虫に和して嘯き
高杪の柿 紅ければ 鳥に先んじて収む
貧富 窮通は 問ふ所に非ず
旻を仰いで 疚しからざれば 竟に何をか憂へん
注
飄搖:ひるがえり動いて定まらないさま。
身世:この身とこの世。この身一代、生涯、生命。 文天祥《過零丁洋》「山河破碎風抛絮 身世飄搖雨打萍」
縱使:たとえ~でも。「使」に使役の意味はない。
思鱸:晋の張翰は秋風の起こるを見て、故郷呉中の名産である蓴羹と鱸膾を思い出し、これを口にしたいあまり、ついに官を辞して故郷に帰った。故郷を思う情の強さをたとえるエピソードとして用いる。 《晋書・張翰傳》「因見秋風起、乃思呉中菰菜蓴羹鱸魚膾、曰、「人生貴得適志、何能羈宦數千里、以要名爵乎。」遂命駕而歸。」
采菊:陶淵明《飲酒》「采菊東籬下 悠然見南山」
低簷:小さな家の低い簷。 菅原道真《卜居》「長生自在福謙家 疎牖低簷向月斜」
竟:疑問詞の前の「竟」は強調の意。 杜牧《杜鵑》「杜宇竟何冤 年年叫蜀門」
旻:秋空。
不疚竟何憂:《論語・顔淵》「内省不疚、夫何憂何懼。」
訳
秋の感懐
揺れ動いて定まることないこの身に、また秋が巡ってきた
粗末な我が家はもうすでに寒く、ボロボロの皮衣を重ね着している
張翰のように故郷の味を恋う気持ちが募ったとしても
陶淵明のように菊を採る悠然たる気持ちが妨げられることはない
低い簷に月が白く輝く夜は虫の音に合わせて長嘯し
高い梢に柿が赤く実れば鳥がついばむ前に収穫する
金があるかないか、出世するかしないかなど問題にすることではない
高く澄みわたる秋空を仰ぎ見てやましいことがなければ、いったい何を心配することがあろうか、ありはしない
補足
2024年9月提出の春風吟社課題詠です。単なる「秋懐」なので自由度が高く思えますが、描かれる情景や感懐に「秋らしさ」が必要なので、簡単なようで難しい題です。
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