夜坐聞蟲

伴影背燈心悄然
近牀蟋蟀弄悲絃
深宵切切聲中坐
目已成眠耳未眠

2024年8月

押韻

下平声一先韻:然・絃・眠

訓読

夜坐 虫を聞く

影を伴ひ 灯を背にして 心 悄然たり
牀に近づく蟋蟀 悲絃を弄す
深宵 切切たる声中に坐せば
目は已に眠りを成すも 耳は未だ眠らず

背燈:灯火に背を向ける。 白居易《村雪夜坐》「南窗背燈坐 風霰暗紛紛」
近牀蟋蟀:寝台に近づいてくるコオロギ。 白居易《夜坐》「梧桐上階影 蟋蟀近牀聲」
悲絃:弦楽器の悲しげな音。 曹植《幽思賦》「仰淸風以嘆息、寄予思于悲絃」

夜中寝ずに坐って虫の音を聞く

わが影だけを伴い灯火を背にしてしょんぼりとしていると
寝台の近くのコオロギも悲しげな音色で鳴いている
真夜中にこのような切々たる声の中ですわっていると
目はすでに眠ってしまっても耳だけは眠らずに聞き続けてしまう

補足

2024年8月提出の春風吟社課題詠です。「夜坐 虫を聞く」という題によりシチュエーションも雰囲気もある程度固まりますが、結句に少しこだわって覚醒と睡眠のあわいを表現してみました。