代賣菊翁【2023.10】(売菊翁に代はる)
代賣菊翁
培養辛勞不暫休
百花凋後志終酬
汝非款愛菊爲菊
縱受千金豈可售
2023年10月
押韻
下平声十一尤韻:休・酬・售
訓読
売菊翁に代はる
培養の辛労 暫くも休まず
百花 凋んで後 志 終ひに酬はる
汝 菊の菊たるを款愛するに非ざれば
縦ひ 千金を受くるとも 豈に售るべけんや
注
代:~に代わって詠むの意。楽府題に「代悲白頭翁(白頭を悲しむ翁に代はる)」がある。
賣菊翁:菊の花を売る翁。
辛勞:つらくて骨が折れること。
款愛:いつくしみ愛する。
菊爲菊:菊が菊であることそのもの。転売してもうけようとか、人に見せびらかして自慢しようとかというのではなく、純粋に菊そのものを愛するのでなければ・・・の意。 永富撫松《盆蘭》「偏愛蘭爲蘭、十年相扶持」
訳
菊を売る翁に代わって詠む
この菊を育てるための辛い苦労は片時もやむことなく
他の花々がみな凋んでしまった今、ようやく志が報われて立派な花を咲かせた
あんたが純粋に菊そのものをいつくしみ愛してくれるのでなければ
たとえ千金をもらったとしても売るわけにはいかんのだ
補足
頑固者の菊の栽培家というキャラクターを設定して、その思いを代弁するという形で詩を詠んでみました。注で挙げた「代悲白頭翁」のように「代~」と題するものに限らず、自分以外のキャラクターの立場になって詩を詠むことは中国の古典文学ではありふれたことでした。たとえば閨怨詩は夫と会えない婦人の怨み悲しみを詠んだ詩ですが、作者は当の婦人ではなく、男の詩人がそういう立場の婦人の気持ちを想像し代弁して詠んでいるのです。
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