鱧【2023.08】
鱧 本朝以鱧字指海鰻
齒牙如刃貌形凶
必要良庖翦骨功
請見熱湯開白菊
美肴非只賴天工
2023年8月
押韻
上平声一東韻:凶(冬韻からの借韻)・功・工
訓読
鱧(本朝 鱧字を以て海鰻を指す)
歯牙 刃の如く 貌形 凶なり
必ず要す 良庖 剪骨の功
請ふ見よ 熱湯に白菊の開くを
美肴は只だ天工のみに頼るに非ず
注
鱧:本来、オオナマズやヤツメウナギを意味する漢字だが、日本ではハモを指す漢字として用いる。 《爾雅翼・釈魚・鱧》「鱧魚、圓長而斑點有七點、作北斗之象」 《本草綱目・鱧魚》釈名、蠡魚、黑鱧、玄鱧、烏鱧、鮦魚、文魚。時珍曰、鱧首有七星、夜朝北斗、有自然之禮、故謂之鱧、又與蛇通氣、色黑北方之魚也、故玄黑諸名」(7つの鰓孔を北斗七星になぞらえるなど、いずれもその説明はヤツメウナギのものである)
海鰻:中国ではハモを「海鰻」と呼ぶ。 《和漢三才圖會・江海無鱗魚・海鰻》「和名、波無、俗云波毛」 《同・藝才・倭字》「鱧、俗云八目鰻也、倭以爲海鰻名者誤」
貌形:すたがかたち。ありさま。
凶:わるい。わるものである。不吉である。
良庖:すぐれた料理人。腕の良い料理人。 《荘子・養生主》「良庖歳更刀、割也。族庖月更刀、折也」
翦骨:ハモの骨切り。ハモは硬い小骨が多いため、「骨切り」と呼ばれる特殊処理をしなければ食べられない。
功:わざ、仕事。
白菊:骨切りしたハモの身が湯引きされて反り返る様子を牡丹ハモなどというが、ここでは菊にたとえた。
天工:天然のはたらき。天然の力による細工。天のなした仕事。
訳
鱧(ハモ。日本では「鱧」の字でハモを指す)
その歯は刃のように鋭く、すがたかたちは凶悪
調理には、腕の良い料理人の骨切りの技術が欠かせない
そんな厄介なハモの身が湯引きされて白菊のように開くのを是非見てほしい
美味い肴というのは天然の力のみによって出来上がるのではない、人間の技術も見事だと感じさせる食材である
補足
関西では夏の風物詩としておなじみの食材、ハモです。小生あこがれの柏木如亭も『詩本草』の一節で京の名品を羅列して「水菜、蕪菁、腐皮、麪筋之妙選、昆布、糉子、鯧魚、海鰻之精選」と言い、「海鰻(ハモ)」を挙げていますが、残念ながら『詩本草』にハモの項目はなく、僭越ながら如亭山人に代わって、というわけではありませんが、ハモという食材と、それを見事な料理に仕上げる職人技の素晴らしさを称えるべく詠んでみた次第です。
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