檻虎

獣王豈肯作俘囚
飽食倍加樊檻羞
牙爪僅爲無用用
心肝漫抱不憂憂
徘徊數歩嘆牢狹
老懶多年甘餌柔
最恨瓦全皮漫美
忍遺賈豎店頭裘

2023年5月

押韻

囚・羞・憂・柔・裘:下平声十一尤韻

訓読

檻虎

獣王 豈に肯へて俘囚と作らんや
飽食 倍加す 樊檻の羞
牙爪 僅かに為す 無用の用
心肝 漫りに抱く 不憂の憂
徘徊 数歩 牢の狭きを嘆き
老懶 多年 餌の柔らかきを好む
最も恨む 瓦全 皮の漫(みだ)りに美なるを
遺すに忍びんや 賈豎 店頭の裘


檻虎:檻の中の虎。白居易の詩に「檻猿(檻の中の猿)」の語あり。 白居易《山中与元九書因題書後》「籠鳥檻猿倶未死 人間相見是何年」
樊檻:とりかごと檻。転じて囚われの身。
徘徊:さまよい歩く。ぶらぶら歩く。母音が同じ畳韻語。
老懶:年老いてものういこと。子音が同じ双声語。「徘徊」と「老懶」は畳韻語と双声語で対になっている。
瓦全:何もなすことなく無駄に生きながらえること。玉砕の反対。
漫:みだりに。むだに、むやみに。
忍:ここは単独で反語。「忍」はしばしば単独で反語「忍びんや(我慢できようか、いやできない)」となる。 独孤及《同皇甫侍御齋中春望見示之作》「甘比流波辭旧浦 忍看新草遍横塘」
賈豎:卑しい商人。商人をさげすむ言葉。

檻の中の虎

百獣の王がどうして進んでとりこになるだろうか
十分な食事で養われていると、なおさら囚われの身の恥ずかしさが増す
牙や爪はもはや僅かに無用の用をなすだけだし
心の中では心配がないことを心配する思いを無駄に抱く
数歩ぶらぶらしただけで檻の狭さを感じて嘆き
年のせいで怠惰となってすでに長く、噛まずに済む柔らかい餌を好んでいる
最も恨めしいのは無為に生きながらえているため皮だけは無駄に美しいことだ
「死して皮を留む」などと言うが、卑しい商人が店先に置く皮裘を残して死後まで恥をさらすなど、どうして耐えられようか

補足

神戸どうぶつ王国でトラを間近に見た際に着想を得て、「檻の中の囚われの虎」というテーマで詠んだ詠物詩です。ですので、この虎は想像上の檻の中の虎で、どうぶつ王国のトラではありません。どうぶつ王国のトラが死んでも、その皮が売られることなどあり得ませんので、誤解のないようお願いします。