チャールズ・R・ナイト 『白亜紀-モンタナ』(一部)

題恐龍相闘圖

利角欲防牙欲穿
四肢撼地首摩天
甲贏乙敗命何異
畢竟難逃化石眠

2023年3月

押韻

穿・天・眠:下平声一先韻

訓読

恐竜相ひ闘ふの図に題す

利角 防がんと欲すれば 牙 穿たんと欲す
四肢 地を撼(ゆる)がし 首は天を摩す
甲は贏ち 乙は敗るるとも 命 何ぞ異ならんや
畢竟 逃れ難し 石と化して眠るを

恐龍:19世紀前半、イグアノドンやメガロサウルスなどの化石が発見され、これら絶滅した巨大爬虫類を指す名称として、1841年、英国の古生物学者リチャード・オーウェンが「dinosaur」(恐ろしいトカゲ)という言葉を造った。明治維新後、dinosaurの概念と研究成果は日本へも伝わり、19世紀末には古生物学者横山又次郎がdinosaurに「恐龍」という訳語を与え、この訳語は中国・朝鮮半島でも採用された。
利角:するどい角。
首:あたま。漢文で「首」は「くび」(neck)ではなく、「あたま」を意味する。「首飾」は髪飾り(かんざし)であり、ネックレスではない。
甲贏乙敗:どちらかが勝ち、どちらかが敗れる。甲・乙は名のわからないもの、仮定のものを指し示す語。

恐竜が戦っている絵画に題して詠んだ詩

一方がするどい角で敵の攻撃を防ごうとし、もう一方は牙で相手の体を貫こうとする
四本の足は地面を揺り動かし、頭は天まで届きそうなほどだ
どちらが勝ち、どちらが敗れたとしても、両者の運命に何の違いがあるだろうか
結局はどちらも化石になって永遠に眠る定めを逃れることはできないのだ

補足

兵庫県立美術館の『恐竜図鑑』展でパレオアート(恐竜など古生物を題材にした美術)の名作の数々に興奮したので、恐竜絵画を詩に詠んでみました。題材にしているのは、チャールズ・R・ナイトの「白亜紀-モンタナ」(冒頭の画像参照)です。この作品はパレオアートの歴史に絶大な影響を与えた傑作で、「ティラノサウルス VS トリケラトプス」というモチーフはその後の恐竜絵画の鉄板ネタとして継承され、その結果、両者は肉食恐竜と草食恐竜を代表する永遠のライバルとして大衆に広く認識されることになります。僕らが子供の頃に手にした恐竜図鑑にも、ナイトの絵画を模倣したイラストが掲載されて僕らを興奮させたものです。

したがって、この詩で戦っている2頭の恐竜は、当然、ティラノサウルスとトリケラトプスであり、「利角欲防」「四肢撼地」はトリケラトプス、「牙欲穿」「首摩天」はティラノサウルスを表現しています。