カブトムシ 独角仙

獨角仙

傲然擡角自誇雄
威武堂堂王百虫
誤爲驕兒所擒獲
空嘆髀肉小籠中

2022年9月

押韻

雄・虫・中:上平声一東韻

訓読

独角仙

傲然 角を抬げて 自ら雄を誇り
威武 堂堂 百虫に王たり
誤つて驕児の擒獲する所と為り
空しく脾肉を嘆ず 小籠の中

獨角仙:カブトムシ
傲然:おごりたかぶっているさま。
王:ここでは「王となる」「王である」という動詞であり、この場合、仄声である。
爲A所B:受身形。AによってBされる。訓読は古来「Aの為にBせらる」「AのBする所と為る」の2種類がある。この場合の「爲」は仄声なので、その点では「Aの為にBせらる」と訓むのが正しいように思えるが、個人的に「AのBする所と為る」という訓み方のほうが好きなので、後者の訓読を採用している。
驕児:わがままな子供。駄々っ子。
擒獲:捕獲する。とりこにする。
髀肉:内ももの肉。劉備が荊州の劉表のもとに身を寄せていたころ、出陣の機会がなく長く馬に乗らなかったため内ももに贅肉がついてしまったことを嘆いたことから、実力を発揮する機会がないのを嘆くことを「髀肉の嘆」という。 《三国志蜀書先主傳・裴松之注》「九州春秋曰、備住荊州數年、嘗於表坐起至厠、見髀裏肉生、慨然流涕。還坐、表怪問備。備曰、吾常身不離鞍、髀肉皆消。今不復騎、髀裏肉生。日月若馳、老將至矣。而功業不建。是以悲耳。」

カブトムシ

おごりたかぶって角を持ち上げてみずから雄々しさを誇るさまは
堂々たる勇ましさで、虫の世界の王たるにふさわしい
しかし、間違ってわがままな子供に捕まえられてしまい
今では小さな籠の中で空しく髀肉の嘆をかこっているのだ

補足

カブトムシを詠んだ詠物詩です。なお、この詩の転句の下三字は挟み平です。