八十八夜

非春非夏氣融融
新樹綠肥花已空
村北村南採茶婦
謡聲各自有家風

2022年5月

押韻

融・空・風:上平声一東韻

訓読

八十八夜

春に非ず 夏に非ず 気 融融たり
新樹 緑 肥えて 花 已に空し
村北 村南 採茶の婦
謡声 各自に 家風有り

八十八夜:日本独自の雑節で、立春から起算して88日目(立春の87日後)を言う。太陽暦では5月2日前後になる。この日に摘んだ茶は上等とされた。
融融:のどかなさま 杜牧《阿房宮賦》「春光融融」
謡声:歌声。 菅茶山《插田歌同諸子賦》「野陰茫茫風景暮 只聞謡声怨且慕」茶山詩では田植唄。拙詩では茶摘唄。

八十八夜

もう春ではないが、夏というわけでもなく、のどかな気配だ
木々の新緑が色を増し、花はすでに散ってしまっている
村のあちこちから聞こえる茶摘女の歌声には
各自の家に伝わる歌いぶりがあるのが趣深いことだ

補足

「♪夏も近づく八十八夜~」で始まる唱歌『茶摘み』に歌われている情景が急になつかしくなり、詩にしてみました。転結はかつてあったであろう古き佳き情景を想像して詠んでみました。今となっては茶摘み作業の大半は短期アルバイトの手を借りているのだと思いますし(宇治に住んでいたころは季節になると茶摘みアルバイト募集の張り紙を見かけました)、茶摘み唄を歌いながら作業することもなさそうです。