西瓜

龍卵靑濃紋若波
快刀一劈爽涼加
當知不似彼胡賊
滿腹赤心無寸瑕

2021年8月

押韻

波・加・瑕:下平声六麻韻(波は歌韻からの借韻)

訓読

西瓜

龍卵 青 濃やかにして 紋 波の若し
快刀もて一劈すれば 爽涼 加はる
当に知るべし 彼の胡賊には似ずして
満腹の赤心 寸瑕も無きを

西瓜:スイカ。
龍卵:西瓜の形容。もともと瓜の品種の一つの名らしい。 李賀《南園・其十二》「鬆溪黑水新龍卵 桂洞生硝舊馬牙」 中島棕隠《鴨東雜詩》「盤中剖得蒼龍卵 幾片紅冰凝不流」 李賀詩の「龍卵」はスイカではなくウリであろう。中島棕隠の「蒼龍卵」は明らかにスイカである。
一劈:ひと裂きする。「劈」はつんざく、さく。
胡賊:安禄山(703~757)。父は西域のソグド系、母は突厥系。唐の玄宗に取り入って信任を得、三節度使を兼任したが、天宝14年(755年)、謀反の兵を起こした。洛陽・長安を落として皇帝を僭称したが、息子らに殺された。玄宗に「その太った腹には何が入っているのか」とからかわれた際に、「赤心あるのみ」と答えて玄宗を喜ばせたという。 《十八史略》「禄山體肥大。上嘗指其腹曰、此胡腹中何所有。對曰、有赤心耳。」
赤心:まごころ。忠誠心。
寸瑕:わずかな傷。

スイカ

見た目は龍の卵のようで緑色は濃く、模様は波のようだ
よく切れる包丁で切り裂くと、あたりに爽やかな涼しさが増す
その中身を見れば当然わかるはずだ、安禄山の偽りの赤心なんかとは異なり
西瓜の中に満ちた赤い果肉には少しのキズもないということを

補足

スイカを詠んだ詠物詩を作ってみました。安禄山のエピソードを使って、スイカの赤い果実を「赤心」に見立てて、安禄山のいつわりの赤心とは違って、少しのキズもない果実がぎっしり詰まっている、という趣向にしました。