送窮鬼

守拙守愚心自夷
歳寒褐短不須医
安貧何故送窮鬼
非欲買山唯買餈

2021年11月

押韻

夷・医・餈:上平声四支韻

訓読

窮鬼を送る

拙を守り 愚を守れば 心 自づから夷らかなり
歳寒 褐 短きも 医を須ひず
貧に安んずるに 何故に 窮鬼を送るや
山を買はんと欲するに非ず 唯だ餈を買はんとす

窮鬼:貧乏神。中国では、正月に窮鬼を祭って家から送り出す風習があり、六朝までさかのぼるという。窮鬼を送りだすことを「送窮」ともいう。その具体的な日にちは、正月晦日、正月二十九日、正月六日(人日の前日)、正月三日、(いずれも旧暦)など史料により異同が多い。一方、日本では、大晦日に貧乏神を追い払う風習が各地に残っている。 陸游《雨中過東村》「窮鬼有靈揮不去 死魔多力到無期」
守拙守愚:自分の拙さ、愚かさを自覚し、それを受け入れ、才能以上のことを求めないこと。
夷:たいらか。おだやか。
褐:粗末な衣服。 陶淵明《五柳先生傳》「短褐穿結」
買山:隠遁するための山を買う。 《世説新語・排調》「支道林因人就深公買印山。深公答曰、未聞巣・由買山而隠。」
餈:もち

貧乏神を送る

自らの拙と愚を自覚して分を守って生きれば心は自然と穏やかだ
冬の寒さに丈の足りない粗末な服を着ていても医者にかかることもない
かくも清貧に安んじているのにどうして貧乏神を追い出すのか
なにも大金を手にして山を買いたいというわけではない、ただ正月の餅を買う金が欲しいだけだ

補足

春風吟社12月提出の題詠です。貧乏神を送り出すというのはかなり絞り込まれたテーマですが、要は「貧乏」というものに対する考え方、スタンスを詠めばよいということになります。

詩中では「拙を守り愚を守る」などとかっこいいことを言っていますが、正直なことを言えば、山でもビルでも買える大金がもらえるなら、いくらでももらいたいところです。

ちなみに結句は「非欲買山」「唯(欲)買餈」という構造で、後半の「欲」が省略されています。