悼中華民國前總統李登輝先生

調鼎多年竭熱誠
民權確立定民生
巨星遽隕哭無語
靜仰靑天白日明

2020年8月

押韻

下平声八庚韻:誠・生・明

訓読

中華民国前総統李登輝先生を悼む

調鼎多年 熱誠を竭くし
民権の確立 民生を定む
巨星 遽かに隕ちて哭するに語無く
静かに仰ぐ 青天白日の明らかなるを

李登輝:1923~2020。中華民国(台湾)第四代総統(1988~2000)。日本統治下の台湾に生まれ、京都帝国大学農学部で農業経済学を学んだ。戦後は台湾に戻り、台湾大学への編入学、米国留学などを経て、農業経済の専門家としてキャリアを積んだ。やがて蒋経国(第3代総統)の知遇を得て政界入りし、台北市長、台湾省主席などを歴任後、副総統に抜擢された。蒋経国の死去により、総統に就任すると、共産党との内戦を口実にして続いていた戒厳体制を解除し、民主化と統治機構改革を進めた。1996年には総統直接選挙を実現し、中華民国史上初の民選総統となった。総統退任後も「台湾団結連盟」を結成するなど影響力を保持した。2020年7月30日、97歳で亡くなった。なお、日本語では「元」総統だが、華語では前任者も前々任者も「前」と表現するらしい。
調鼎:宰相が国を治めること
民權確立定民生:「民権伸張」「民生安定」は国父孫文のとなえた三民主義のうちの二つ。 靑天白日:青空に輝く太陽。中華民国の国章でもある。

中華民国前総統李登輝先生を悼む

李登輝元総統は、国政を担った長い年月の間、熱い誠を尽くし
民主化で国民の権利を確立することで、国民の生活を安定させた
その偉大な人物の急な訃報に接し、あまりの驚きにその死をいたむ言葉も思い浮かばず
中華民国の国章さながらに青空に輝く太陽を静かに仰ぎ見るばかりだ

補足

「台湾民主化の父」李登輝元総統の逝去を悼んで詩を作りました。政治家の常として毀誉褒貶は避けられませんが、国民党一党独裁体制の台湾を一滴の血も流さず民主主義国家に導いた功績はまぎれもないものです。いまや「自由と民主主義の最前線」とも呼ばれる台湾ですが、李登輝元総統の存在なくして今の台湾がなかったことは間違いありません。謹んでご冥福をお祈りいたします。