聞某氏費萬金欲赴月球想起久米仙人戲作

羽客纔窺浣女腓
神通遽失志全違
昨今財力勝仙術
能伴佳人向月飛

2019年8月

押韻

上平声微韻:腓・違・飛

訓読

某氏の万金を費やして月に赴かんと欲するを聞き、久米仙人を想起して戯れに作る

羽客 纔かに窺ふ 浣女の腓
神通 遽かに失はれて 志 全て違ふ
昨今 財力は仙術に勝り
能く佳人を伴ひて月に向かって飛ぶ

某氏:株式会社ZOZO前社長の前澤友作氏。米宇宙ベンチャー・スペースX社が開発中の大型ロケット「BFR」による月旅行を2023年に予定。費用は推定700億円以上。
久米仙人:久米寺(奈良県橿原市)の開祖という伝説上の人物。仙術で飛行中に地上で洗濯している若い女性の白い脛に見惚れてしまい、神通力を失って墜落したという。
:ほんの少し。~しただけで。
浣女:洗濯している娘。王維《山居秋暝》「竹喧歸浣女 蓮動下漁舟」
:こむら。ふくらはぎ。
神通:神通力。仏や修行僧などが持つ神秘的な法力。 陸游《拄杖》「放翁拄杖具神通 蜀桟呉山興未窮」 西脇呉石《久米仙人其一》「可憐仙子失神通」
伴佳人:前澤前社長は月旅行に複数のアーチストを連れて行くと公言している。交際中の某若手女優も連れて行くとか、連れて行かないとか。 西脇呉石《久米仙人其二》「飛行今日凌仙術 銀翼悠悠伴美人」

某氏が大金を費やして月へ行くというのを聞いて久米仙人を思い起こし、ふざけて作った詩

久米仙人は、洗濯している娘のふくらはぎを少し覗き見ただけで
たちまち神通力を失ってしまい、その志もすべて挫折することとなった
昨今の財力は偉大で仙術よりもまさっているらしく
美人を連れて月まで飛んでいけるのだという

補足

この詩を作ったのは8月で、春風吟社に提出したのは9月7日で、この時点では前澤氏はZOZOの社長でしたが、その直後の9月12日、ヤフーがZOZOを買収するとともに、前澤氏はZOZOの社長を退任することとなりました。どうしてこんなややこしいタイミングでこんな詩を作ってしまったのか、我ながら自分のタイミングの悪さが嫌になりますが、月旅行の意向は変わらないようなので、この詩の内容は変える必要はないかと思われます。

なお、語注に引用してあるとおり、この詩の転結は西脇呉石の《久米仙人》詩を参考にしています。

追記

前澤氏の肩書とか、女優さんとの交際の状況とか、月旅行の実現性とか、時間経過とともに情勢がいろいろ変わっていると思いますが、この詩の内容や語注等はあらためて更新することはしませんので、ご了承ください。