夏夜對月

深更蒸暑夢頻醒
遠近蛙聲仰月聽
遙想廣寒宮裏夜
嫦娥應賞地球靑

2019年7月

押韻

下平声九青韻:醒・聽・靑

訓読

夏夜 月に対す

深更の蒸暑 夢 頻りに醒め
遠近の蛙声 月を仰いで聴く
遥かに想ふ 広寒宮裏の夜
嫦娥 応に賞すべし 地球の青きを

深更:深夜
廣寒宮:月の都にあるという宮殿。
嫦娥:月に住む女神。もともと天界の仙女だったが、夫の羿の不始末で夫婦ともども地上に追放された。その後、羿が西王母からもらい受けた不死の仙薬を盗んで月に逃げた。月に逃げた際に容貌をヒキガエルに変えられたともいう。 李商隠《嫦娥》「嫦娥應悔偸靈藥 碧海青天夜夜心」

夏の夜、月に向き合う

深夜の蒸し暑さで何度も目がさめてしまい
遠くでも近くでも鳴いているカエルの声を月を仰ぎながら聞いている
はるか遠くから思い浮かべるのは、月にあるという広寒宮の夜
嫦娥がきっと青い地球をながめて楽しんでいるにちがいないということだ

補足

春風吟社8月提出の題詠です。結句の「嫦娥應」は李商隠の詩と同じですが、李商隠はそのあとを「夫を捨てて霊薬をぬすんで逃げたことを後悔しているはず」と続けています。しかしこれはどう考えても男の側の願望でしかないと思うので、僕の詩では嫦娥は月の生活を満喫して月見ならぬ「地球見」を楽しんでいるという設定にしました。