灘五郷竹枝【2018.10】
灘五郷竹枝
六甲風寒桶好磨
從敎不暇憶丹波
今年聞説米尤美
朗暢須謳造酒歌
2018年10月
押韻
磨・波・歌:下平声五歌韻
訓読
灘五郷竹枝
六甲の風 寒ければ 桶 好し 磨かん
さもあらばあれ 丹波を憶ふに暇あらざるも
今年 聞くならく 米 尤も美なると
朗暢として須らく謳ふべし 造酒の歌
注
灘五郷:神戸市灘区から西宮市にかけて広がる5つの酒造地(西郷、御影郷、魚崎郷、西宮郷、今津郷)の総称。江戸時代中期以降、日本酒の名産地として栄え、現在では国内日本酒流通量の約3割を生産する。2018年6月、「灘五郷」は国税庁により地理的表示(GI)の指定を受けた。これにより原料および製法について基準を満たした商品のみが「灘五郷」を称することができるようになった。
竹枝:土地の風俗や男女の恋愛を題材に詠まれた小唄のような詩。
六甲風:六甲颪のこと。六甲山から吹き下ろす寒風。この寒風がもたらす低温環境は、ミネラル豊富な宮水と酒造好適米の「山田錦」とともに、灘の酒造業の発展をもたらした。
好:「さあ~しよう」「さあ~せよ」という意味をあらわす。あるいは「宜」と同様に「好しく~すべし」と考えてもよい。
從敎:「遮莫」「任他」などと同じく、「さもあらばあれ」と訓じ、「以下のようであってもかまいはしない」という意味をあらわす。
不暇~:~するひまがない、~する余裕がない
丹波:令制国名。現在の兵庫県北東部から京都府中部にまたがる。かつて灘の酒蔵で働く杜氏・蔵人の多くが丹波からの出稼ぎだった。
朗暢:ほがらかで伸び伸びしているさま
造酒歌:酒造り唄。酒造りの作業の際に、リズムをとったり、眠気をさましたりする目的で歌われた唄。例《秋洗い唄》「〽寒や北風六甲颪 灘の本場で桶洗い 桶の洗いは造りの初め 男心で浄めます 洗い浄めて蒸し上げまして 造り香もする灘の酒」
訳
灘五郷小唄
寒い六甲颪が吹き始めたので、さあ桶を磨いて酒造りに備えよう
酒造りが忙しくなって故郷の丹波を思い起こす暇がなくても、ままよ、かまいはしない
聞くところによると、今年は酒米の出来が非常によいそうだ
これはぜひとも朗々と伸びやかに酒造り唄を歌わなければならないぞ
補足
10月20日(土)に東遊園で開催された「灘の酒と食フェスティバル in 神戸」のステージイベントで、「沢の鶴(株)酒造り唄研究会」による酒造り唄の実演を鑑賞したことから発想を得て作った詩です。
なお冒頭の写真は、以前、白鶴酒造資料館内で撮影したもので、蝋人形で「酛摺り」をしている場面を再現しています。
コメント
0 件のコメント :
コメントを投稿