鉢伏山上梅林望須磨浦

幽韻淸聲風似笛
丹唇白面朶如郎
公孫玉碎知何處
波閃源平古戰場

2020年3月

押韻

郎・場:下平七陽韻(起句は対句のため踏み落とし)

訓読

鉢伏山上の梅林より須磨の浦を望む

幽韻 清声 風 笛に似たり
丹唇 白面 朶 郎の如し
公孫 玉と砕くるは 知んぬ 何れの処ぞ
波は閃く 源平の古戦場

鉢伏山:神戸市須磨区にある山。六甲山系の西端に位置し、山上からは須磨海岸を展望できる。周辺は源平合戦の一ノ谷古戦場として知られ、隣接する鉄拐山の東南が、源義経の一軍が馬で駆け下った「鵯越の逆落とし」の断崖絶壁であるとされる(他の説もあり)。
梅林:鉢伏山山頂付近には須磨浦山上遊園があり、梅の名所としても知られる。
須磨浦:須磨海岸。神戸市須磨区の海岸。古来より美しい砂浜を持つ景勝地として有名。一帯は一ノ谷の戦いで戦場となった。
ロープウェイ車内から望む須磨海岸
幽韻:奥ゆかしいかすかな響き
淸聲:清らかな音
笛:平敦盛(後述)は笛の名手として知られ、愛用の笛「青葉」は祖父・平忠盛が白河院から賜ったものとされ、現在も須磨寺に保管されている。
丹唇:赤い唇。少年の唇を表現するのに用いられることが多い。
白面:色白の美しい顔。経験の乏しい年少の者や貴族の子弟を指すことが多い。
朶:
郎:若い男。平敦盛を指す。
公孫:諸侯や貴族の孫。貴公子。平敦盛のこと。平清盛の弟、平経盛の末子であり、伊勢平氏として初めて昇殿を果たした平忠盛の孫にあたる。
玉砕:玉のごとく砕ける。潔く死ぬことのたとえ。一ノ谷の戦いで義経の奇襲を受けた平氏の軍は船に乗って海上へ逃れたが、波際にいた敦盛は、源氏方の熊谷直実に「敵に後ろを見せるは卑怯」と呼び止められて引き返し、一騎打ちの末、直実に組み伏せられた。敦盛の顔を見て我が子と同じ年頃の少年であることに気付いた直実は躊躇して助けようとしたが、敦盛から「早く首を取れ」と言われ、涙ながらに敦盛の首を切った。このことにより人の世の無常を強く感じた直実は出家への意志を強めたという。敦盛の首塚は須磨寺に、胴塚は須磨浦公園内にある。
須磨浦公園にある敦盛塚
知何處:どこであろうか。「知」のあとに疑問詞が来ると、「知」一字で「不知(わからない)」の意になる。
閃:ひらめく。瞬間的にきらめく。ちらちら光る。

鉢伏山上の梅林から須磨の浦を望む

風の奥ゆかしい響き、清らかな音をかなでる風は、敦盛の笛の音に似ている
赤い唇のような花、色白の顔のような花をつけた梅の枝はまるで敦盛その人のようだ
貴公子敦盛が玉のように潔い最期をとげたのは、どのあたりであろうか
今となっては源平の古戦場にもただ波がきらめくばかりだ

補足

篠山マラソン後の休足明けの長田・須磨方面マラニックで、須磨浦山上遊園を訪れた際のことを詠んだ詩です。マラニックなので、敦盛塚などいろいろ立ち寄りながら、須磨浦公園駅でロープウェイに乗り山上遊園へ登りました。そういうわけで、自然と敦盛を主軸にした詩になりました。