花時出遊

長堤獨歩擅春姸
罩樹紅雲映碧天
際會時艱宜領解
賞花不必要歌筵

2021年3月

押韻

下平声一先韻:姸・天・筵

訓読

花時出遊

長堤 独り歩んで 春妍を擅(ほしいまま)にすれば
樹を罩むる紅雲 碧天に映ず
時艱に際会して 宜しく領解すべし
賞花 必ずしも歌筵を要せざるを

擅:ほしいままにする。占有する。
罩:こめる。包み込む。
紅雲:赤い雲。満開の桜のたとえ。
時艱:時局が困難であること
際會:めぐり合う
歌筵:歌い興ずる酒宴

花の季節に出かけて楽しむ

長い堤をひとり歩いて春のうるわしい景色を独り占めすれば
樹をつつみこむ赤い雲のような桜が青空に照り映えている
困難な時局にめぐりあった今、理解すべきなのは
花をめでるのに必ずしも宴は必要ではないということだ

補足

春風吟社4月提出の題詠です。「時艱」は直接的にはコロナ禍のことですが、時代が移り変わって別の有事であっても通じるように作ったつもりです。酒も歌もなくても、花の美しさは変わりません。むしろ宴の雑音がないほうが本当の花の美しさを堪能できることに、多くの人が気づいたのではないでしょうか。