池波正太郎歿後三十年書感

劔客單刀斷亂麻
鬼平疎網捕長蛇
宜乎紙価至今貴
毎展遺篇興益加

2020年5月

押韻

麻・蛇・加:下平六麻韻

訓読

池波正太郎没後三十年 感を書す

剣客の単刀 乱麻を断ち
鬼平の疎網 長蛇を捕らふ
宜なるかな 紙価の今に至るも貴きこと
遺篇を展ぶる毎に 興 益すます加はる

池波正太郎:平成2年(1990年)5月3日没。代表作に『鬼平犯科帳』『剣客商売』『仕掛人・藤枝梅安』『真田太平記』『雲霧仁左衛門』など。
單刀斷亂麻:刀一本で入り乱れもつれた物事を解決する。
疎網:目の粗い網。法令や取り締まりが寛大であるたとえ。鬼平は非道な凶悪犯に対しては容赦ない反面、酌むべき事情のある者、悔い改めた者に対してはしばしば「目こぼし」をする。《老子・七十三》「天網恢恢疎而不漏」
長蛇:大蛇。転じて残忍な悪人。《後漢書·張綱傳》:「專爲封豕長蛇、肆其貪叨。」
宜乎:もっともなことだ。周敦頤《愛蓮説》「牡丹之愛、宜乎衆矣」
紙価貴:著書がさかんに読まれること。西晋の左思の「三都賦」の評判がよく、人々がそれを書写するために争って紙を買い、洛陽の紙の値段が高くなったという。《晋書・文苑傳》「於是豪貴之家、競相傳寫、洛陽爲之紙貴」

池波正太郎の没後30年に感じたことをしるす

剣客商売の秋山小兵衛は刀ひとつでもつれた問題を解決し
鬼平こと長谷川平蔵の網は天網のごとく寛大な面がある一方で悪の大物を逃しはしない
没後30年になる今でも多くの人に愛読されているのももっともなことだ
のこされた作品をひもとくたびに面白さはますます増していくのだから

補足

池波正太郎の没後30年ということで、鬼平ファンとしてはぜひとも詠まなければと思い、作った詩です。